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よるのわかば
夜の若葉
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《夜の若葉(よるのわかば)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 12,072 字 · 24 頁
初夏に移ろうとする季節になって、二日つづきの休日があった。風邪をこじらした母の多代子が東京から小一時間ばかりの海辺にある小さい家へ行っている。急に思い立って桃子も出かけた。元はゆるやかな砂丘つづきで、小松や萱の生え茂っていたその海岸を縫って、近年観光のドライヴ・ウエイができた。家はその路をへだてて海に面する高みにあるので、ひところ、土曜、日曜は東京方面から箱根に向って深夜まで疾走する自動車の波、すれ違って東京へと帰路をいそぐ車の動きで海面の燦きはいつもその路の上を走っている車のボディに反射して目に映る有様であった。
このごろはガソリンがなくて、その路の上も閑静となっている。
焼杉のサンダル下駄を無雑作に素足の先につっかけて、着古した水色の薄毛の服に小さいエプロンをつけた姿を暢気に仰向け、桃子は庭の芝生のゆるい斜面に臥ていた。昼近い陽にぬくもった松の樹脂の匂い、芝生から立ちのぼる見えない陽炎のようないきれ、それらが海近くの濃い純粋な空気の中でとけあっていて、目をつぶってころがっている桃子はただ日光がふり注ぐばかりでなく、ふんだんな光りと空気の微粒がぴちぴちと快く粒だって皮膚や髪の根にまでしみて来るような感じである。