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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
線上閱讀横光 利一《夜の靴(よるのくつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 頁
炉の中では、焚火が灰の上を匐い廻って鍋が煮えない。開けた雨戸をまた閉める音。喚き狂う風で、雨も吹っち切れて戸にあたらない。
農村だのにどこもかしこも米がなくなっていて、もう死ぬ、もう死ぬと、露骨にそういう声声の聞えているところへこの雨だ。私のいる家の亭主は長男の嫁の家へ米借りに出かけて行く。労働の出来ないこんな悪日を利用して、主婦の清江は味噌取りに駅まで行き、一日がかりでその傍の、仏の口というものを聞きに行く。春秋二度、毎年ある巫女から、自分の思いためらう心配事について聞き質しに行くのだ。この清江の心ひそかな心配事というのは、およそ私に想像はついているが、帰ればそっと妻に訊かせてみたい。私には清江も云わないだろうから。
他人の心の奥底の心配ごとをこっそり覗きたいと思う悪心は、この主婦の清江に限って私は働かせてみたいのだ。この主婦の思い願うものは驚くほど質実単純なことにちがいないのだが、その心の底から、私は鎌倉時代の女性の心をまともに感じてみたいのだ。ここはすべてが鎌倉時代とは変っていない。風俗、習慣、制度、言語、建築、等等さえも――ただ変っているのは、精米所と電灯があるぐらいのことだろう。