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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

線上閱讀織田 作之助《夜光虫(やこうちゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 頁

青空文庫

「――もしかしたら……何かが……」

あるのではなかろうかという予感が、ないわけでもなかった。

「とにかく宿へ帰ってみよう」

著物を持たずに帰ったところで致し方はないが、しかし、寿司の土産はある。

著物を手に入れるあてもなく、まごまごしていたずらに時間を空費しておれば、雪子の空腹は増すばかりだと、小沢は淀屋橋から地下鉄に乗った。

(作者はここで再び註釈をはさみたい。――即ち、偶然というものは、続き出すときりがない……と。)

亀吉が同じ車輛に乗り合わせていたのだ。

しかし、小沢は亀吉の顔には見覚えはなかった。たとえ亀吉の顔を見ても、それが自分の荷物を横取りした男だとは、気がつかなかった。

亀吉の方でも、小沢に気がつかなかった。

車内が混んでいたからだ。

ところが、電車が大国町の駅を発車して間もなく――。

「掏摸だ」

という声があった。

声はすぐ人ごみの隙間を伝わり、

「掏摸だ、掏摸だ」

真青な唇と、不安な唇と、好奇的な唇が、右へ向き、左へ向いた。

何を見ても、何をきいても、日々これ驚くべきことばかしの近頃の世相である。いちいち莫迦正直に驚いていては、弱い神経の者は気が狂ってしまう。