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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
線上閱讀島崎 藤村《夜明け前(よあけまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 頁
七通りと言えば、地白、地赤、地黒、総模様、腰模様、裾模様、それに紋付ときまったものさ。古式の御祝言では、そのたびにお吸物も変わるからね。しかし、今度のような場合は特別さ。今度だけはお前、しかたがないとしても、旦那(吉左衛門)が半蔵にのこして置いて行った先祖代々からの山や田地はまだ相応にあるはずだ。あれが舵の取りよう一つで、この家がやれないことはないとわたしは思うよ。無器用に生まれついて来たのは性分でしかたがないとしても、もうすこし半蔵には経済の才をくれたいッて、旦那が達者でいる時分にはよくそのお話さ。」
そういうおまんは何かにつけて自分の旦那の時代を恋しく思い出している。この宿場の全盛なころには街道を通る大名という大名、公役という公役、その他、世に時めく人たちで、青山の家の上段の間に寝泊まりしたり休息したりして行かないものはなかった。過ぐる年月の間の意味ある通行を数えて見ても、彦根よりする井伊掃部頭、名古屋よりする成瀬隼人之正、江戸よりする長崎奉行水野筑後守、老中間部下総守、林大学頭、監察岩瀬肥後守から、水戸の武田耕雲斎、旧幕府の大目付で外国奉行を兼ねた山口駿河守なぞまで――御一新以前だけでも、それらの歴史の上の人物はいずれもこの旧本陣に時を送って行った。