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ゆめどのさつじんじけん
夢殿殺人事件
小栗 虫太郎
線上閱讀小栗 虫太郎《夢殿殺人事件(ゆめどのさつじんじけん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 27,755 字 · 55 頁
しかも、前方から歩んで来て、礼盤の縁で止まっている。それを逆に辿って行くと、遂に三階の階段を上り切ってしまって、突出床から壁に添うて敷かれてある、竹簀の前で停まっていた。検事は前方の壁面を見上げて思わず声を窒めた。それ迄バラバラに分離していた多くの謎が、そこで渾然と一つの形に纏まり上っている。梵字形の創傷も、流血の消失も、浄善の咽喉に印された不可解な扼痕も……それ等凡て一切合財のものが、孔雀に駕し四本の手を具えた、「孔雀明王」の幽暗な大画幅の中に語られているのではないか。高さ四尺幅三尺程の大幅の中には、画面一杯に羽を拡げた印度孔雀に、駕し左右四つの手に、各宝珠を捧げ説法の印を結んだ異形の女身仏が、背上の蓮台の上に趺座しているのだ。それは、如何にも密教臭い、病理的なヒステリカルな暗い美しさだった。しかも、輪羽の中芯を、密陀僧の朱が核のような形で彩取っていて、その楕円形をした鮮かな点列だけが、暗い、血を薄めたような闇の中から泛かび上っていた。然し、そう云った秘密仏教特有の、喝するような鬼気と云うのが、この場合、単なる雰囲気にのみ止まってはいなかったのである。