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おおいがわおくやまのはなし

大井川奥山の話

木暮 理太郎

線上閱讀木暮 理太郎《大井川奥山の話(おおいがわおくやまのはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,724 字 · 20 頁

青空文庫

十時頃出発して国境を迂回せずに真直に登って行く。天狗樺や丈の高い偃松に困しめられ、二時間を費して漸く聖岳の直下に達することを得た。途中二、三間しか離れていない岩の上に羚羊がのそりと立っているのを見付けて雄吉が杖で叩き倒そうとしたが、僅に腰のあたりをかすったのみで羚羊はヒュッヒュッと妙な声を立てながら逸走してしまった。直ぐ其後について雄吉は何ということなしに一町近くも追いかけて行ったのは猟師の本能からであろう。

三十分許り休んで愈々聖岳の斜面を登りに懸った。左は恐ろしい大きなガレであって、岩の裂目から地下水が迸っている。仰ぐと巨象の頭に似た聖岳の頂上から、右に長く尾根を曳いて、夫が如何にも象が鼻を伸しているように見える。勾配の急な山肌は一面に破片岩の堆積であって、偃松も碌に生えていない。気に伴わない足が動もすれば滑って、夫と共に幾つかの石が落ちる。危険であるから雁行して登ることにした。夫でも身軽の私は四十分足らずで頂上に着いた。北の眺望が開けて荒川岳、小河内岳、仙丈岳、鋸岳などが目に入る、人夫の来るのを待って昼食をすまし、午後二時半に西北を指して下り始める。