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やまとじ・しなのじ

大和路・信濃路

堀 辰雄

線上閱讀堀 辰雄《大和路・信濃路(やまとじ・しなのじ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 58,165 字 · 115 頁

青空文庫

ともかくも、その笹むらのなかの小さな思惟像は、何かにつけて、旅びとの私にはおもい出されがちだった。

※(アステリズム、1-12-94)

或る秋の日にひとりで心ゆくまで拝してきた中宮寺の観音像。――その観音像の優しく力づよい美しさについては、いまさら私なんぞの何もいうことはない。ただ、この観音像がわれわれをかくも惹きつけ、かくも感嘆せしめずにはおかない所以の一つは、その半跏思惟の形相そのものであろうと説かれた浜田博士の闊達な一文は私の心をいまだに充たしている。その後も、二三の学者のこの像の半跏思惟の形の発生を考察した論文などを読んだりして、それがはるかにガンダラの樹下思惟像あたりから発生して来ているという説などもあることを知り、私はいよいよ心に充ちるものを感じた。

あのいかにも古拙なガンダラの樹下思惟像――仏伝のなかの、太子が樹下で思惟三昧の境にはいられると、その樹がおのずから枝を曲げて、その太子のうえに蔭をつくったという奇蹟を示す像――そういう異様に葉の大きな一本の樹を装飾的にあしらった、浅浮彫りの、数箇の太子思惟像の写真などをこの頃手にとって眺めたりしているときなど、私はまた心の一隅であの信濃の山ちかい村の寺の小さな石仏をおもい浮かべがちだった。