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ほんやくちぎのせつ
大尉の娘
神西 清
線上閱讀神西 清《大尉の娘(ほんやくちぎのせつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,030 字 · 21 頁
……」
圏点も無用、註釈も無用、ただひたすらに心を耳にして、さて黙って引退ればよい。事情既にかくの如し、今さら何の繰言ぞやである。
とばかりも言っておられまいから、些か泣言を並べることにする。飜訳をしながら先ず何よりも苦々しく思うのは、現代日本語のぶざまさ加減である。一体これでも国語でございといわれようかと、つくづく情なく思うことがある。たかが飜訳渡世風情が何を言う! と諸君は言われるか。悪ければあっさり引退りもしようが、では誰がこのぶざまな国語の心配をして呉れるのか。元来を言えば、これはむろん飜訳渡世風情の発言が許さるべき筋合いのものではなく、といって文部省の管轄でもなく、まぎれもなく詩人の役目なのであるが、国語そのものから来る致命的な掣肘によってその肝腎の詩の発達が阻害されている現状では、よろしく創作家が責を負うべき仕事である筈だ。だが彼らの誰が真面目に国語の将来を憂えているであろうか。たとえば谷崎潤一郎氏が、氏のぬきさしならぬ文章精神を『文章読本』として世に問うたとき、現役文壇人の誰が真面目に氏の説を玩味したであろうか。僕の記憶にして誤りがなければ、氏の説を吟味しその真摯さに静かに敬礼した人は、意外にも小林秀雄氏一人あるのみであった。