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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
線上閱讀中里 介山《大菩薩峠(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 頁
白雲は、この少年を慰めるつもりで、座右に置いた自分の写生帳――房総歴覧の収穫――それを取って、無雑作に茂太郎のために貸し与えました。
悲しげに沈黙した茂太郎は、与えられた絵の本を淑かに受取って、畳の上へ置いて一枚一枚と繰りひろげます。
この写生帳は、房州の保田へ上陸以来、鋸山に登り、九十九谷を廻り、小湊、清澄を経て外洋の鼻を廻り、洲崎に至るまでの収穫がことごとく収めてある。
何も知らぬ茂太郎も、一枚一枚とその肉筆の墨の色に魅せられてゆくうちに、
「あ」
といいました。しょげ返っていた少年の頬に、サッと驚異の血がのぼりました。
「おじさん」
「何だい」
「あなたはお嬢さんの似顔を描きましたね」
「お嬢さんの?」
「ええ」
「どこのお嬢さん……」
といって、十四世紀の絵画を眺めていた田山白雲が、自分の画帳の上に眼を落すと、そこには、房州の保田の岡本兵部の家の娘の姿が現われておりました。
「これはおじさん、保田の岡本のお嬢さんの似顔でしょう、それに違いない」
「うむ、どうしてお前、それを知っている」
「あたいのお嬢さんですよ」
「お前も、保田の生れかね」
「そうじゃありませんけれど、これは、あたしのお世話になったお屋敷のお嬢さんです」