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だいぼさつとうげ
大菩薩峠10
中里 介山
線上閱讀中里 介山《大菩薩峠10(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 285,635 字 · 558 頁
その時のわたしは、いつもと違って、無心に、あの水の色と、絹糸のような藻に、みとれていたのではありません。
わたしはこの無名沼を歌によみたいと思って、われを忘れておりましたのです。
そこで、わたしは、短い歌を三つばかり考えましたが、どうも、まだ言葉が足りないので、しきりに工夫を凝らしておりましたものですが、沼の水の色も、自分の立っている離れ岩のことも、その離れ岩の不祥な思い出のことなんぞも、すっかりその時に忘れ果て、ただ歌にばかり夢中になっておりました。
そうすると、不意に後ろから、わたしの肩を押えるものがあるので、わたしは、倒れるばかりに驚かされてしまいました。
『あ……どなた?』
たしかに、わたしの人相まで変っていたことでしょう。
ところがその人は案外に、
『は、は、は、は……』
と高らかに笑いました。
その笑い声で、わたしは、はっと合点がゆきましたが、同時に、今の恐怖は飛び去るようになくなってしまいました。その笑い声が、晴れた日に鼓でも鳴らすような、さえざえした陽気な笑い声で、この辺に、こんな陽気な笑い声を持っている者はほかにはありません、それは鐙小屋の神主さんでありました。