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だいぼさつとうげ
大菩薩峠10
中里 介山
線上閱讀中里 介山《大菩薩峠10(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 285,635 字 · 558 頁
兵馬は縁台の一つに腰をかけると、そのままゴロリと横になって、頭をかかえてしまいました。
来るならば、馬の足だから、もう疾うに着いてもいいはずだ。自分より先へ着いてもいいはずだ。道は例によって悠々閑々と歩いて来たのだから、途中で追い抜くくらいになってもいいはずなのだが、それがまだ着かない。
自分で振切ったものを待っているというようになっては、後ろめたい話だが――そうかといって、約束は約束だ。
こういう時に、吉原でさんざんに翻弄された、つい遠からぬ頃の記憶が、芽を吹き出さないということはない。実は翻弄ではない、あれがあたりまえなのだ。玄人が素人をあやなす手はあれにきまったものなのだが、こっちが真剣でかかればかかるほど、その結果が翻弄ということになってしまうのを、兵馬も今は気がついているでしょう。
多分、苦い味は嘗めさせられたけれども、まだそこまでは、人生というものを軽蔑はしきれないのだろう。商売だから仕方がないものの、その多数の客のうちでは、自分だけがいちばん可愛がられていたという思い出は、まだどうしても去らないに違いない。
だが、先方は玄人だ。こっちがあせればあせるほど、擒縦の呼吸をつかむことが、今になって、わからないでもない。