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だいぼさつとうげ

大菩薩峠10

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠10(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 285,635 字 · 558 頁

青空文庫

忍びの上手は、立木の間にかくれると、立木そのものになる。立木そのもののようになり得た七兵衛は、少しも城内の夜の気分と、自分というものの心を乱すということなく待っているが、果していくばくもなく、人の気配がうしろの方から起りました。

「来たな」

と七兵衛は心得たけれど、動揺はしない。動揺というのは身体を動かすことだけではない、心を動かせば、空気は動くものであります。

しかし、これは変だぞ……と七兵衛があやしみました。

見廻りのお役人ではない。それは自分がしたのと同じように、吹上のお庭から、このお薬園の方へ、塀を乗越している者がある。

以ての外と七兵衛が、暗いところでその眼をみはりました。

生憎のことか、幸いか、七兵衛の眼は、暗中で物を見得るように慣らされていますから、今しも塀を乗越えて来る曲者。それは自分以上か、以下か知らないが、とにかく、このお城の中へ潜入した曲者を、別に眼の前に見ていることは確かです。

そこで、さすがの七兵衛も固唾を呑んで、その心憎い同業者(?)の手並を見てやろうという気になりました。

見ているうちに、七兵衛はほほえみました。これはおれより手際が少しまずい、まあ素人に近い部類だわい――と思いました。