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だいぼさつとうげ

大菩薩峠10

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠10(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 285,635 字 · 558 頁

青空文庫

彼は、たしかに江戸城内を抜け出してきての今、

「浅ましいことだ」

という感慨が、ひしと胸にこたえているものらしい。

何が浅ましい。自分のしたことが浅ましいのか、周囲の見るもの、聞くものが浅ましかったのか。七兵衛の胸に折々、里心が首を持上げるのは、今にはじまったことではないが、この時は、特に何かの感じが激しくこみ上げて来たと見えて、ほとんど涙を落さぬばかりに浅ましい色を見せましたが、気をかえようとして取り上げたのが、杯ではなくて、火の消えた煙管でしたから、それが一層、七兵衛をめいらせるような気持にして、

「よくばちが当らねえものだなあ」

とつぶやいて、煙管を投げ出しました。

七兵衛は常々そう思っている。何でも人の尊敬すべきものは尊敬しなくちゃならない。神仏が有難いといえば、有難がるのが凡人の冥利だ。長上をうやまえといえば、無条件にうやまうのが人間の奥ゆかしさだ。理窟も、学問も、いった事じゃない。尊敬と、服従の、美徳がうせては、人間の社会が成立たないじゃないか。

それに、どうだ、おれに向って、大奥の間取りを見て来てくれとたのむ奴がある。たのまれるおれという奴も、またおれという奴、来て見れば、またそれにいっそう輪をかけた奴があって、城ぐるみ焼いてしまおうという。