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だいぼさつとうげ

大菩薩峠16

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠16(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 268,946 字 · 520 頁

青空文庫

それにも拘らずついにこの男の正義心が、ビタを一枚盗むこと、物を一つちょろまかすことを、絶対に許しませんでした。

それから、あんなわけで故郷を立退いて、乞食同様になって東海道を下って来た間、どのくらい自ら銭の無い旅の苦しみを味わわせられ、また一方、どのくらい銭の有り余る旅客の贅沢ぶりを見せつけられたか知れなかったのですが――この男は銭の有難味を知りながら、ついに銭の誘惑には負けたことがありませんでした。

米友は今、痛切にその事の記憶をよみがえらされたのですが、そんな思い出話をスラスラと、或いはベラベラと話し出す男ではありません。何とも名状し難い、こし方の道の思い出を、ガッチリと歯を喰いしばって縛りつけようと試みていたのですが、その事の想像の以外は、どうしてもお君のことにうつらないというはずはありません。

「あっ! いやだな」

米友が、思わずこう言ってうめいたのが、お雪ちゃんを少し驚かせました。

「どうしたのです、米友さん」

「どうもしやしねえが……」

と言いながら、米友がややあわてて、また事改まったように銭勘定にとりかかると、今度は不意に程近いところで、バサバサと聞き慣れぬ物音が起ったので、かえって米友が驚かされました。