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だいぼさつとうげ
大菩薩峠3
中里 介山
線上閱讀中里 介山《大菩薩峠3(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 214,131 字 · 423 頁
こんなことを考えている時に、能登守は風呂から上った様子でありましたから、お松は立って行きました。そうしてお松は、能登守の着物を着替える世話をしてやりました。能登守はお松の親切を喜んで、打解けて見えます。
お松は言い出そう、言い出そうとしましたけれども、つい言い出しにくくなって、お願いがございますと咽喉まで出てそれが言えないで、自分ながら気がいらだつのみであります。
お松が能登守のために雪洞を捧げて長い廊下を渡って行く時に、笹子峠の上へ鎌のような月がかかっているのが見えました。
能登守は静かに廊下を歩きながら、その月を振仰いで見ました。
「そなたは、江戸からこんなところへ来て淋しいとは思わないか」
と能登守はお松を顧みてこう言ってくれました。その言葉があったために、さっきから一生懸命で、言い出そう言い出そうとしていたお松は一時に力を得て、
「いいえ、淋しいとは思いませぬ、少しも」
と言葉にも力を入れて返事をしました。
「それはえらい」
と言って、能登守は賞めたけれど、お松の言葉よりは鎌のような月の方に見恍れているのでありました。
「殿様」
お松はここでせいいっぱいに殿様といって能登守を呼びかけましたけれど、自分ながらその言葉の顫えていることに驚いたくらいでありました。