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だいぼさつとうげ

大菩薩峠7

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠7(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 242,044 字 · 477 頁

青空文庫

「お起きなすったのか知ら」

ここは、両国橋の雑沓が聞えない程度の距離のしもたやで、大抵のお客は断わって、次興行の秘策をめぐらすお角の唯一の控所であるのに、二階でまだ寝込んでいた人があるとすれば、それは誰だろう。お角も相当に腹のある女だから、まさかがんりきの百蔵のような男を、ここへ引張り込んで寝泊りをさせるようなこともあるまいに。

お角が、天井を見上げている間に、二階で物音をさせていたのが静かに歩いて来て、やがて梯子段の上がミシリミシリと音を立てはじめる。そこでお角はやや居ずまいを直して、

「お嬢様、お危のうございますよ」

煙管を片手に梯子段を見上げていると、だまって下りて来る人があります。ほどなくお角の前へ姿を現わしたのは、ねまきに羽織を引っかけた女の姿に違いはないけれど、どうしたものか、頭からすっぽりとお高祖頭巾をかぶったままです。

「おかみさん」

「お嬢様、もうおよろしうございますか」

「ええ、もう癒ってしまいました」

お角が、ていねいであるのに、女はなかなか鷹揚です。それに、いくらなんでも、人の前に出て頭巾をかぶったなりに挨拶をするのは、みようによっては甚だしい横柄なもので、それをお角ほどの女が、一目置いて応対しているのは、よほどの奇観といわなければならないことです。