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きかいなはなし

奇怪な話

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《奇怪な話(きかいなはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 7,130 字 · 14 頁

青空文庫

危い。よくみんな平気でいられるものだ……。

そうした不安が、幸にも私には昂じなかった。後で聞いたことだが、右の青年はまだ多少気が変で、往々にして、一切飲み食いをせず、耳や鼻に綿をつめこみ、布団の中にもぐりこんで、息をこらし、自分で窒息しかけることがあるそうである。

自分も危いところだった、と思って、私は大きく息をついたものだ。

*

狂気や正気が身体の穴から出入するなどということは、酔余の幻覚かも知れないが、自分の身体の存在について不安を覚ゆることは、多くの人にあるものらしい。深夜、書斎で、読書の後、或は瞑想の後、精神が澄み返り、神経が冴え返って、悲痛なほど明朗な世界が現出され、その中で自分の身体が、自己を離れて観取されることがある。

ソリエという医者の報告によれば、モーパッサンは晩年に、そういうことを屡々経験したらしい。

書斎の机に向っている時、ふと室の扉の開く音がする。一体彼は、仕事中は決して室にはいってはいけないと、召使たちに厳命していたものである。扉の音をきいて、彼はふしぎに思い、振向いてみる。すると、はいってきたのは彼自身で、静に歩みより、彼の正面に坐り、片手で額を押えながら、彼が書いてる先を口述し初める。