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おんなはおなじものがたり

女は同じ物語

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《女は同じ物語(おんなはおなじものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 21,279 字 · 44 頁

青空文庫

「東風楼なら存じていますわ」

「あれはいい宿だ」

「でも武家のお客さまが多いようでございますね」と紀伊は云った、「平野屋という宿は小そうございますけれど、すぐ下に谷川が見えますし、静かでおちついていて、わたくし好きですわ」

「それなら、平野屋にしてもいい」

紀伊は待った。

「平野屋にしよう」と広一郎は云った、「――私はもう寝ることにする」

彼は寝衣に着替え、そして夜具の中へ(まるで逃げ込むように)もぐってしまった。

明くる朝早く、広一郎は両親に断わって、赤根の湯にでかけた。紀伊はなにもいわなかったし、変ったそぶりもみせなかった。

赤根はその城下から二里ほどのところで、佐貝川の渓流に臨んだ、小高い丘の中腹にあった。広一郎は歩いていった。その途中、彼はしきりに気が沈んだ。独りで保養にいってどうするんだ、温泉に浸ったり出たり、谷川を眺めたってしようがないじゃないか、「いっそやめにするか」と彼は呟いた。二度ばかり立停って、引返そうとした。しかし、ことによると紀伊が来るかもしれない、と彼は思った。平野屋をすすめた口ぶりだと、あとから追って来るつもりかもしれないぞ。