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ようば

妖婆

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《妖婆(ようば)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 37,473 字 · 73 頁

青空文庫

通りすぎながら、二人が尻眼に容子を窺うと、ただふだんと変っているのは、例の鍵惣が乗って来た車だけで、これは遠くで眺めたのよりもずっと手前、ちょうど左官屋の水口の前に太ゴムの轍を威かつく止めて、バットの吸殻を耳にはさんだ車夫が、もっともそうに新聞を読んでいます。が、そのほかは竹格子の窓も、煤けた入口の格子戸も、乃至はまだ葭戸にも変らない、格子戸の中の古ぼけた障子の色も、すべてがいつもと変らないばかりか、家内もやはり日頃のように、陰森とした静かさが罩もっているように思われました。まして万一を僥倖して来た、お敏の姿らしいものは、あのしおらしい紺絣の袂が、ひらめくのさえ眼にはいりません。ですから二人はお島婆さんの家の前を隣の荒物屋の方へ通りぬけると、今までの心の緊張が弛んだと云う以外にも、折角の当てが外れたと云う落胆まで背負わずにはいられませんでした。

ところがその荒物屋の前へ来ると、浅草紙、亀の子束子、髪洗粉などを並べた上に、蚊やり線香と書いた赤提燈が、一ぱいに大きく下っている――その店先へ佇んで、荒物屋のお上さんと話しているのは、紛れもないお敏だろうじゃありませんか。