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こをうばう

子を奪う

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《子を奪う(こをうばう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 39,292 字 · 80 頁

青空文庫

」と兼子は答えた。「実はこないだ、庭に誰か立っているようなので、喫驚してなおよく見ると、それが椿の木だったりしたこともありますが、それにしても、あの子の様子が余りおかしいんですもの。ひょっとすると、子供に逢いたさの余り、家の前をぶらついたりなんかなすってるのではないでしょうか。それならそうと云って、家へ来て下さればいいのに。」

「お前までそんなことを云うからいけないんだ。」と彼は云った。

然し彼自身も少からず神経を悩まされた。敏子のことはそうだとは思えなかったが、一種の神秘なあり得べからざることが、却ってありそうに思えてきた。馬鹿な、そんなことが! と自ら云って見たけれど、今にも更に悪いことが起りそうな気がした。

そして実際、依子の様子は益々いけなくなっていった。それにつれて兼子も益々苛立ってきた。彼女は打ちこそしなかったが、それよりも更に悪い冷たさを以て、依子に対するようになった。その合間々々には熱狂的な愛撫を示した。依子はこの冷熱の間に苦しめられて、彼や幾代の方へ逃げていった。兼子はそれをまた抱き取ってきた。胸にひしと抱きしめながら云った。

「依子ちゃんは誰が一番お好き? え、誰が一番お好きですか。