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あんごのしんにほんちり
安吾の新日本地理
線上閱讀坂口 安吾《安吾の新日本地理(あんごのしんにほんちり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,150 字 · 28 頁
松阪牛というのは、松阪で生れた牛ではないのである。生れは兵庫県キノサキ、つまり神戸牛の仔牛。これを和歌山で二三歳まで育て、最後に松阪へつれてきて三月から半年かけて育成、最後の仕上げをする。松阪が最後の育成に適しているのは、薬草などが自生している土地柄にもよるが、肥育の第一番の秘訣は愛撫、愛情であるという。たまにサイダー十本にナマ卵をぶちこみ泡の立つ奴を牛にのませたりすることも秘訣だけれども、実際は愛情、主人の情が牛に通じることによって、牛がスクスク肥育するというのであるが、このへんは伊勢神話の現代篇としてお聞きとり願う。松阪くんだりへ来て、奇妙な教祖に会ったものだ。この教祖は来客があって昼酒をしたたかきこしめしグデングデンに酔ってロレツがよく廻らないのである。
「私は六十をだいぶ過ぎていますが、まだこの通り。毎日松阪牛肉を食べるからで」
教祖は私をおびやかす。この時だけは、ちょッと驚いた。あんまり教祖的でありすぎるからゴセンタクをそっくり信用する勇気がくずれるのだ。彼はうち見たところ、どうしても五十前後六十をだいぶ過ぎているというのは本当かな。蘇民将来子孫の土地は面妖である。