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たぬきじる
完本 たぬき汁
佐藤 垢石
線上閱讀佐藤 垢石《完本 たぬき汁(たぬきじる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 133,158 字 · 273 頁
五
そのころ私は、ある会社の創立のために町の方の旅館に滞在していた。早朝、顔色蒼白となった家内は、私の部屋へ転げ込んだ。しばし、口がふるえて言葉が出ぬありさまであった。家内は気が落ちついてから、充血した眼を輝かして、昨夜からの顛末を語ったのである。
私は、暗然とした。
その日の午後、警察署へ捜索願を出すと同時に、京都に電報で照会してみた。すると、たしかに当方にきているから、気遺いはいらぬ、という返電があった。それからもう、みゑ子はわが家へ帰らぬ子となった。
家内は失神したようになって、それから一ヵ月ばかり床の中の人となった。訳ある子二人を育て、わが子を三人産み、貧苦と闘い、浪費癖の良人を護りながら、義理と人情の路に立って、ついに自他一如の心境に達していた家内は、報われなかった。
日ごろ、家内の心を知っていながら、何の感謝の意を言葉の上に出さないできた私は、この事件に際しても、慰めの言葉が口から出なかった。
姉の、わがままが、こういうことを引き起こしたのであろうが、結局は私の不徳、つまり私の貧乏がこんな羽目に導いたのではないかと思う。私は、家内の心を哀れに見た。