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ほうえいふんか

宝永噴火

岡本 かの子

線上閱讀岡本 かの子《宝永噴火(ほうえいふんか)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 頁

青空文庫

するといくらか気が静まって来て、小粒に光りながら緩んだ綴目の穴から出て本の背の角を匍ってさまよう蠧魚の行衛に瞳を捉えられ思わずそこへ蹲まった。

蹲まって、まわりの書物を見廻すと、さすがに馬翁の学識の広さが判った。書物の種類は、詩に関するもののほか、儒仏、老山荘百家に亙っていた。見聞の狭い慧鶴青年にはまるで世界の知識の種本が蒐められているように思えた。咄嗟に謙虚な気持が湧いて来て、彼は膝に両肘を突いたまま頭の上で掌を合せた。世の中には、まだこれほどの知識があるのだ。この多い知識のなかには、自分のような特異性を持った性癖の人間をも導くに足りる知識が無いとも限らない。世の中に神秘の力があるものならその前にひれ伏そう。もし偶然であるとしても、自分はその偶然を信頼しよう。どうか、これらの書物のなかで、自分の師とするに足りる書物を指図して欲しい。眼はいつの間にか閉ざしていて、心ではしきりにこういう意味のことを祈った。そして眼は瞑ったまま手を後にさしのべて、指に触った一冊を掴んで来て眼を開けて見た。さすがに胸はときめいた。その本は「禅関策進」であった。

今日こそこの本は禅を学ぶものの間には中等程度の教科書ぐらいにありふれたものであるが、当時に於ては珍らしい書物の一つであったらしい。