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よせとしばいと

寄席と芝居と

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《寄席と芝居と(よせとしばいと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 26,084 字 · 52 頁

青空文庫

この方面には汽車の開通しない時代であるから、道中は捗取らない。その夜の宿は土地で有名の旧家であるが、紀行には「蚤と蚊にせめられて思ふやうに眠られず。」とある。翌三十日は粕壁、松戸を経て、幸手の駅に入り、釜林という宿屋に泊まる。まことに気の長い道中である。

この旅行に、円朝は弟子を伴わず、伝吉という車夫一人を供に連れて行ったので、道中はかなりに退屈したらしい。おまけに、今夜の宿もよろしくなかったらしく、紀行には「其夜は雨ふりて寝心も好からんと思ひのほかにて、蚤多く眠りかね、五時に起き出で、支度なしたり。」とある。行く先きざきで蚤や蚊に責められていたのは気の毒である。円朝は決して下等な宿屋に泊まったのではないが、毎晩この始末。むかしの旅の不自由が思いやられる。

三十一日は利根の渡を越えて、中田の駅を過ぎる。紀行には「左右貸座敷軒をならべ、剥げちょろ白粉の丸ポチャちら/\見ゆる。」とあって、ここで「あだし野や馬に食はるゝ女郎花」という俳句を作っている。一々紹介することは出来ないが、この紀行の詳細を極めているのは実に驚くべき程で、途中の神社仏閣、地理風俗、旅館、建場茶屋、飲食店、諸種の見聞、諸物価など、ことごとく明細に記入してある。