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よせとしばいと

寄席と芝居と

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《寄席と芝居と(よせとしばいと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 26,084 字 · 52 頁

青空文庫

満場の聴衆はみな息を嚥んで聴きすましている。伴蔵とその女房の対話が進行するにしたがって、私の頸のあたりは何だか冷たくなって来た。周囲に大勢の聴衆がぎっしりと詰めかけているにも拘らず、私はこの話の舞台となっている根津のあたりの暗い小さい古家のなかに坐って、自分ひとりで怪談を聴かされているように思われて、ときどきに左右を見返った。今日と違って、その頃の寄席はランプの灯が暗い。高坐の蝋燭の火も薄暗い。外には雨の音がきこえる。それらのことも怪談気分を作るべく恰好の条件になっていたに相違ないが、いずれにしても私がこの怪談におびやかされたのは事実で、席の刎ねたのは十時頃、雨はまだ降りしきっている。私は暗い夜道を逃げるように帰った。

この時に、私は円朝の話術の妙と云うことをつくづく覚った。速記本で読まされては、それほどに凄くも怖ろしくも感じられない怪談が、高坐に持ち出されて円朝の口にのぼると、人を悸えさせるような凄味を帯びて来るのは、実に偉いものだと感服した。時は欧化主義の全盛時代で、いわゆる文明開化の風が盛んに吹きまくっている。学校にかよう生徒などは、もちろん怪談のたぐいを信じないように教育されている。