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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
線上閱讀寺田 寅彦《寺田寅彦随筆集 第一巻(どんぐり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 頁
見ると年増のほうの芸者であった。自分にはかまわず片すみの衣桁に掛かっている着物の袂をさぐって何か帯の間へはさんでいたが、不意に自分のほうをふり向いて「あちらへいらっしゃいね、坊ちゃん」と言った。そして自分のそばへ膝のふれるほどにすわって「オオいやだ、お化け」と絵をのぞく。髪の油がにおう。二人でだまって無心にこの絵を見ていたらだれかが「清香さん」とあっちのほうで呼ぶ。芸者はだまって立って部屋を出て行った。
俊ちゃんと二人で奥の間で寝てしまったころも、座敷のほうはまだ宵のさまであった。
あくる日も朝から雨であった。昨夜の騒ぎにひきかえて静かすぎるほど静かであった。男は表の座敷、女どうしは奥の一間へ集まって、しめやかに話している。母上はねえさんと押し入れから子供の着物など引きちらして何か相談している。新聞を広げた上に居眠りを始めている人もある。酒のにおいのこもった重くるしいうっとうしい空気が家の中に満ちて、だれもかれも、とんと気抜けのしたようなふうである。台所ではおりおりトン、コトンと魚の骨でも打つらしい単調な響きが静かな家じゅうにひびいて、それがまた一種の眠けをさそう。