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どんぐり

寺田寅彦随筆集 第一巻

寺田 寅彦

線上閱讀寺田 寅彦《寺田寅彦随筆集 第一巻(どんぐり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 頁

青空文庫

中二階のほうで、つまびきの三弦の音がして「夜の雨もしや来るかと」とつやのある低い声でうたう。それもじきやんで五月雨の軒の玉水が亜鉛のとゆにむせんでいる。骨を打つ音は思い出したように台所にひびく。

昼から俊ちゃんなどと、じき隣の新宅へ遊びに行った。内の人は皆ねえさんのほうへ手伝いに行っているので、ただ中気で手足のきかぬ祖父さんと雇いばあさんがいるばかり、いつもはにぎやかな家もひっそりして、床の間の金太郎や鐘馗もさびしげに見えた。十六むさし、将棋の駒の当てっこなどしてみたが気が乗らぬ。縁側に出て見ると小庭を囲う低い土塀を越して一面の青田が見える。雨は煙のようで、遠くもない八幡の森や衣笠山もぼんやりにじんだ墨絵の中に、薄く萌黄をぼかした稲田には、草取る人の簑笠が黄色い点を打っている。ゆるい調子の、眠そうな草取り歌が聞こえる。歌の言葉は聞き取れぬが、単調な悲しげな節で消え入るように長く引いて、一ふしが終わると、しばらく黙ってまたゆるやかに歌い出す、これを聞いているとなんだか胸をおさえられるようで急にねえさんの宅へ帰りたくなったから一人で帰った。帰って見るともうそろそろ客が来始めて、例のうるさいお辞儀が始まっている。