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どんぐり
寺田寅彦随筆集 第一巻
寺田 寅彦
線上閱讀寺田 寅彦《寺田寅彦随筆集 第一巻(どんぐり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,161 字 · 412 頁
すると子供らも散り散りに帰って行く。
あとはしんとして死んだような空気が広場をとざしてしまうのである。
いつか塒に迷うた蝙蝠を追うて荒れ地のすみまで行ったが、ふと気がついて見るとあたりにはだれもいぬ。
仲間も帰ったか声もせぬ。
川向こうを見ると城の石垣の上に鬱然と茂った榎がやみの空に物恐ろしく広がって汀の茂みはまっ黒に眠っている。
足をあげると草の露がひやりとする。
名状のできぬ暗い恐ろしい感じに襲われて夢中に駆け出して帰って来た事もあった。
広場の片すみに高く小砂を盛り上げた土手のようなものがあった。
自分らはこれを天文台と名づけていたが、実は昔の射的場の玉よけの跡であったので時々砂の中から長い鉛玉を掘り出す事があった。
年上の子供はこの砂山によじ登ってはすべり落ちる。
時々戦争ごっこもやった。
賊軍が天文台の上に軍旗を守っていると官軍が攻め登る。
自分もこの軍勢の中に加わるのであったが、どうしてもこの砂山の頂まで登る事ができなかった。
いつもよく自分をいじめた年上の者らは苦もなく駆け上がって上から弱虫とあざける。
「早く登って来い、ここから東京が見えるよ」などと言って笑った。