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からすうりのはなとが
寺田寅彦随筆集 第三巻
寺田 寅彦
線上閱讀寺田 寅彦《寺田寅彦随筆集 第三巻(からすうりのはなとが)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 213,804 字 · 425 頁
このはじめて見た文楽の人形芝居の第一印象を、近ごろ自分が興味を感じている映画芸術の分野に反映させることによってそこに多くの問題が喚起され、またその解決のかぎを投げられるように思われる。特に発声映画劇と文楽との比較研究はいろいろのおもしろい結果を生むであろうと思われる。そうしてその結果は人形芸術家にも映画芸術家にも、いろいろの新しい可能性の暗示を授けるであろうと想像される。
たとえば、スクリーンの映像では、その空間的位置がちゃんと決定されているのに、音響のほうは、聞いただけでその音源の位置を決定する事ができない。この事がいろいろ問題になっているが、文楽でこの問題はつとに解決されている。すなわち、たとえば、酒屋の段のお園が手紙をさして「ふ、う、ふ、と書いてある」というところがある。その音源はお園からは十メートル近くも離れた上手の太夫の咽喉と口腔にあるのであるが、人形の簡単なしかし必然的な姿態の吸引作用で、この音源が空中を飛躍して人形の口へ乗り移るのである。この魔術は、演技者がもしも生きた人間であったら決してしとげられないであろうと想像される。
もし、人間の扮したお園が人形のお園と精密に同じ身ぶりをしたとしたら、それはたぶん唖者のように見えるか、せいぜいで、人形のまねをしている人間としか見えないであろう。