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ちいさなやぎのきろく

小さな山羊の記録

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《小さな山羊の記録(ちいさなやぎのきろく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,402 字 · 19 頁

青空文庫

書く意志をすてたのである。当分、朝も、昼も、夜も、たゞ、ねむろう。長いこと、あるいは三年間ぐらい、つゞいて睡眠が不充分であった。冬眠。左様、蛇の冬ごもりのように、しばらく冬眠しようと思った。

そして、それからのことは、もはや明滅的にしか、覚えていないのである。通算して、一日に、約五十錠ほどずつ、アドルムをのんだ。私は一日ねむったつもりでいたのに、一週間すぎていたりした。私はそれを殆ど信じることが出来なかった。

急速に、幻聴がはげしくなった。幻視は、まだ、現れなかった。私は昏酔しながら、昏酔を自覚することが出来なかった。いつも、夢を見ていたが、それを夢として自覚できずに、行為としてしか自覚することが出来なかった。私は、小説の用件で、雑誌社の人と用談したり、酒屋の借金を払いに行ったり、すべて、日常のことのみを夢に見、然し、それを、夢と自覚することが出来ず、実際自分が行った行為としてしか理解することができなかった。

それにも拘らず、私の知らないうちに、一週間がすぎている。たしかに、寝た日から、一週間目の日附の新聞が枕元にあるのである。私は夢の中の出来事を確実な行為として思いだす。