輕鬆讀懂日語經典作品
ja-reading.com
輕鬆讀懂日語,輕鬆閱讀日語。線上閱讀日語經典作品。支援在閱讀過程中顯示假名、查詢生詞、翻譯句子。
やまのてのこ
山の手の子
水上 滝太郎
線上閱讀水上 滝太郎《山の手の子(やまのてのこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,551 字 · 31 頁
熊野神社の大鳥居も見えた。三吉座という小芝居の白壁に幾筋かの贔負幟が風に吹かれているのを、一様に黒い屋根の間に見出した時はことに嬉しかった。芝居好きの車夫の藤次郎が父の役所の休日には私の守りをしながら、
「乳母には秘密ですぜ」
と言っては肩車に乗せてその三吉座の立見に連れて行く。父母とともに行く歌舞伎座や新富座の緋毛氈の美しい棧敷とは打って変って薄暗い鉄格子の中から人の頭を越して覗いたケレンだくさんの小芝居の舞台は子供の目にはかえって不思議に面白かった。ことに大向うと言わず土間も棧敷も一斉に贔負贔負の名を呼び立てて、もしか敵役でも出ようものなら熱誠を籠めた怒罵の声が場内に充満になる不秩序な賑やかさが心も躍るように思わせたのに違いない。私は藤次郎の言うままに乳母には隠れてたびたび連れて行ってもらったものだった。静寂な木立を後にして崖の上に立っていると芝居の内部の鳴物の音が瞭然と耳に響くように思われてあの坂下の賑わいの中に飛んで行きたいほど一人ぼっちの自分がうら淋しく思われた。
それは確かに早春のことであった。日ごとに一人で訪ずれる崖には一夜のうちに著しく延びて緑を増す雑草の中に見る限りいたいた草の花が咲いていた。