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やまをおもう
山を思う
石川 欣一
線上閱讀石川 欣一《山を思う(やまをおもう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 79,814 字 · 157 頁
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今日、普通に行われる形式の登山、即ちスポーツの一つとして山に登ることは、比較的最近の流行である。それ迄の、長い時代を通じて、山、あるいは山脈は、邪魔物でこそあれ、人間の憧憬の対象とはならなかった。邪魔物である山は、同時に魔物であった。山は恐るべきものであった。そこは悪魔の住居であった。人は何かの――商業軍事その他――必要があって、山の向うの地へ赴かんとする時、その山脈中で、最も越えやすい点を求め、こゝを通った。
◇
最も越えやすい点は最も低い地点である。だが必ずしも、最低ということばかりが条件になりはしない。そこに達する迄の地形、地質が大いに関係する。とても登れぬような谷があったり、必ず雪崩の墜る斜面を通ったり、路をつけ得ぬような土砂の場所を横ぎらねばならぬのでは、そこを通る人は全然無いか、あるいは追々減って行くかする。そして、最低ならずとも、これ等の条件のよい地点が選ばれるに至ろう。要するに山脈を越えるのに最も都合のよい地点が峠になる。
いつの間にか単に山嶺を極めるということに興味を失いかけた私は――これは私の登山生活に対する一種の哀歌であるかも知れぬ――山嶺と山嶺との間に位し、一地方と他地方とを結ぶ峠に興味を感じ出した。