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やまをおもう
山を思う
石川 欣一
線上閱讀石川 欣一《山を思う(やまをおもう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 79,814 字 · 157 頁
法師温泉
広い道の両側に並ぶ、屋根に石を置いた大きな家は、一様に黒ずんだ褐色をしていて、所々の軒にさがったエナメル・ペンキ塗の売薬やその他の看板が、不気味な程鮮かに目立つ。新治村の役場で村長さんにあい、猿ガ京の関所のことや、三国峠の話を聞き、役場の裏の麦畑の畔で完全な石鏃を二つ見つけた。この辺、山河のたゝずまい、どこか京都の裏の、出石、豊岡附近に髣髴たるものがある。
低い空から雨が落ちはじめた。大きな月見草が真昼、頭をもたげて咲き、河鹿の声が街道に添う川からしきりに聞える。鬱蒼たる木立の中に立ちぐされる大きな家、崩れる荒壁、太い柱……、何かしら旅愁に近いものを感じ出した時、後から猿ガ京行の乗合が走って来た。とめて乗ると人絹の靴下をはいた女車掌、前橋あたりから新婚旅行にでも来たらしい男女。湯宿の温泉も相俣の宿もぐらぐらゆれて過ぎ、笹の湯で夫婦者が下りると間もなく猿ガ京。待っていたフオードに乗って永井の宿――こゝには大きな本陣がある――から本街道を離れ、V字形をなす西川の溪谷の、Vの右斜線の上を走って法師温泉へ二里余。
法師温泉
後閑から猿ガ京までの道は、田舎とは思えぬ位、良好である。