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こうせつきょうほうずえ

巷説享保図絵・つづれ烏羽玉

林 不忘

線上閱讀林 不忘《巷説享保図絵・つづれ烏羽玉(こうせつきょうほうずえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 365,120 字 · 728 頁

青空文庫

長くなったまま、無言がつづいた。

二

お高が、いっている。こわれた笛のような声だ。

「はい、それはわたくしあてのお手紙でございます。でございますから、わたくしが拝見いたしました」

「そうか」

と、若松屋惣七は、驚愕をふきとるために、顔をなでた。平静を装おうとしているのだ。

「そうか。高音というのは、お前であったか。高音とお高、なるほどな。知らなかったぞ」

もう一度、顔をなでる。なでながら、見えない眼が、指のあいだからお高をみつめた。鼻に、皺が寄った。

「ふん。お前が高音か。そうか。そんなら、手紙をひらいたに不思議はない。本人だからな。あはははははは、それがどうしたというのだ?」

どうしたというのだ? と、笑いを引っ込めて、若松屋惣七は、膝を振り出した。いらいらしてきたのだ。

三年まえに、麻布十番の馬場屋敷に住んでいて、そこで、日本橋式部小路の太物商磯五の店から、二百五十両の買い物をして、それからこんにちまで、払いを逃げまわってきた高音という女――それが、お高と名をかえて、じぶんの屋敷に住みこみ自分も今では、稼業の右腕とたのんでいるばかりか、こうして何年ぶりかに、女として、人間的な愛をすら感じ出している。