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こうせつきょうほうずえ

巷説享保図絵・つづれ烏羽玉

林 不忘

線上閱讀林 不忘《巷説享保図絵・つづれ烏羽玉(こうせつきょうほうずえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 365,120 字 · 728 頁

青空文庫

「二朱か。可哀そうだな。一分はずんでおくんなせえ。なあおい勘太」

「そうよ、そうよ――しかし兄貴、いい女だなあ!」

「よけいなことをおいいでないよ。じゃ酒代ぐるみ一分上げるから急いでおくれ」

「あいきた。話あ早えや。ささ乗んなせえ――よしか勘太、いくぜ」

つういと駕籠の底が地面を離れると、た、た、たと二、三歩足をそろえておいて左足からだくをくれる。あとは肩口のはずみ一つだ。

右へ折れて御門跡前。

ほうっ、ほっ。

えっさ、えっさ。

えっさっさ。

息杖がおどる。掛け声は勇む。往来の人はうしろへ、うしろへと流れてゆく。

家なみの庇や紺暖簾に飛びちがえる燕くろの腹が、花ぐもりの空から落ちる九つどきの陽ざしを切って、白く飜えるのを夢みるような眼で、女は下からながめて行った。これも祭の景物であろう。やぐら太鼓の音が遠くにひびいている。

「えい、はあ!」

腰をひねって、駕籠は角を曲がる。

新寺町の大通りだ。

油を浮かべたような菊屋橋の堀割りへ差しかかったとき、女は駕籠の垂れを上げて背後を見た。と、あの執念深い折助が、木刀を前半に押えて、とっとと駈けてくる。気のせいか、真っ赤な顔が意地悪く笑っているようだ。