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こうせつきょうほうずえ

巷説享保図絵・つづれ烏羽玉

林 不忘

線上閱讀林 不忘《巷説享保図絵・つづれ烏羽玉(こうせつきょうほうずえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 365,120 字 · 728 頁

青空文庫

どこからか見ているものとみえて、声は静かにつづける。

「そのほうども何用あって参った。いやさ、誰に頼まれて当屋敷へ踏み込みおった?」

ひしひしとあたりに人体の気を感ずる。四方八方から眼が光っているようだ。迫る鬼気に呼吸がかたまって、二人はもう額に汗をかいている。

そこへ、一枚あけ放した戸から、風とともに吹き込むおびただしい桜の花びら――花ふぶきだ。

さらさらと生あるごとく、畳をなでている。

散る花の命。

文次は手を握りしめた。

二寸、三寸、五寸、むこうの襖が、すべるようにきしむように、見えぬ手によってあきつつある――。

青山夢に入ってしきりなり

「また、春じゃのう」

相良玄鶯院は、熊手を休めて腰をたたいた。ついでに鼠甲斐絹の袖無着の背を伸ばして、空を仰ぐ。刷毛で引いたような一抹の雲が、南風を受けて、うごくともなく流れている。

今そこらをはきおわったところであろう。狭い庭の隅に、去年の落ち葉をあつめて小さな塵塚ができている。

永日閑居とでも題したい、まことにのんびりした図。

ここ本所割り下水といえば小役人と浪人の巣だが、その石原新町お賄陸尺のうら、とある巷路の奥なるこの庵室は、老主玄鶯院の人柄をも見せて、おのずから浮世ばなれのした別天地をなしている。