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こうせつきょうほうずえ
巷説享保図絵・つづれ烏羽玉
林 不忘
線上閱讀林 不忘《巷説享保図絵・つづれ烏羽玉(こうせつきょうほうずえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 365,120 字 · 728 頁
女はいっそうやわらかに出る。
「ほんとに困ってしまうんですよ。病身でしてねえ。はあ、この一月ってものは、まるで脚腰が立たないんでござんす。ま、お掛けなすって、お茶でも一つ――」
「いや、もうおかまいなく」
文次もすまして上がり框に腰をおろし、ちら、ちらと女を見ると、女は物思わしげにうつむいて、火鉢の灰をかきならしている。貧乏世帯を苦にせず病夫にかしずいている世話場の呼吸だ。おくれ毛が二、三本、艶に悩ましい気色である。
たそがれ刻の裏町。
鉄瓶が松風の音を立てている。こっとりとした静寂だ。
「あのう、何ですかえ」と文次。「師匠はお眠みですかえ」
「はあ、よく寝ておりますから失礼させていただきます」
あとは二人、またしてもばつの悪い無言の行。いつ果つべしとも見えない。と、つと文次がたち上がった。
「一つ上がってお見舞い申しましょう」
框に足を掛けると、愁いを含んだ女の眼にあざやかな嬌笑が流れた。
「さあ、どうぞ――むさくるしいところでお恥ずかしゅうござんすけれど」
ともう立って来て、そこの座蒲団を裏返して、晴れやかに文次を待っている。
こうなっては明らかに文次の負けだ。