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ていてんをみざるのき

帝展を見ざるの記

寺田 寅彦

線上閱讀寺田 寅彦《帝展を見ざるの記(ていてんをみざるのき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 7,664 字 · 16 頁

青空文庫

私の想像は無論群集に押されて第一室へ流れ込む。先ず何かしら大きな屏風の面に散布した色彩が期待に緊張した視線に打つかる。近くで見てはどうも全体の統一した感じが得られないと思って引下がって見ようとすると、その絵の前に立ちはだかった人々の群が邪魔になったりする。多くの場合にこの室の屏風からは何物をも受取る事が出来ないので、今度はその隣りにある洋画臭い風景画に移って行くと、その新しい描き方に少時足を止めさせられたりする。しかしそれと同じような絵で、もっと好いのを前にどこか他所で見たような気がし出して来ると、私の眼は自然にその隣りの小型の美人画や花鳥画に移って行ったりする。

二室三室と移って行くうちに、始めの緊張した心持は孔のあいた風船玉のようにしぼみ縮んで行く。そうして時々ちょっとしたスキルラやカリブディスに遭遇しても大抵は無事に通過してしまう。最後に私の頭に残った日本画部全体の印象は、干からびた灰色の、無秩序な些細な抑揚の交錯であある。

批評でも書いてみようという成心を持っていない、通り一遍の観覧者の多数は、おそらくこういう感じを抱いて洋画の方へ移って行くに相違ない。