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ききょうき
帰京記
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《帰京記(ききょうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,010 字 · 4 頁
どこも焼けてはいなかった。住宅地域はひっそりしていて、私の家は更に静まり返っていた。二階も階下も雨戸がしまっていて、玄関の戸が二三寸閉め残してある。その戸を引あけて中にはいると、人の気配もなくて薄暗く、声をかけるとニャアーオと飼猫がのっそり出て来た。
私は隣家へ様子をききに行った。「まあ!」といったきり、そこの奥さんは暫く私の顔を見た。――一日二日と、家主さんの庭で野宿をしたので、四歳になる末の子が軽い大腸カタルを起したらしい。そこで、妻はかねて懇意な小児科医の宇都野研氏のところへ見せに行き、丁度病室もあいてたので、病児を主に、妻自身と他の二人の子供とはついでに、一家そろって昨日入院してしまった。「さきほど女中さんが病院へいらしたところです。」
きいてみれば、なるほど、妻のやりそうなことだ。私は始めて微笑を浮べて、家に帰り、薄暗い中で猫をだいて寝そべった。
その、一人留守居の猫と、あの騒ぎの最中の妻の処置と、四辻で別れたベルギー婦人とが、震災当初の私のもっとも深い思い出である。その思い出が、十年後の今になっても、特殊の淡い哀愁で私の心を打つ。