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まぼろしのその

幻の園

豊島 与志雄

線上閱讀豊島 与志雄《幻の園(まぼろしのその)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,788 字 · 14 頁

青空文庫

ばかに大きな三組の朱塗りの杯で、その真中に、うちのとちがった美しい紋章が、金ではいっていました。私が一緒に眺めていると、祖母は独語のような調子で云いました。

「これはお殿様から頂いたものです。」

私はその調子がおかしかったので、祖母の肩につかまって笑いました。祖母は怪訝そうに私の方を見ました。そしてやはり同じような調子で云いました。

「大事な品ですから、覚えておくんですよ。」

「どれが一番大事なの。」と私は尋ねました。

祖母は眼をしばたたきました。

「三つとも大事なの。」

「ええ。」

その時、私は祖母をからかうつもりでいましたが、ふと、重大な問題が頭に浮びました。土蔵の中のしいんとした静けさとしっとりとした空気と、高い窓からさす空の反映の薄ら明りが、祖母と私との間の距りをなくしてしまいました。

「お祖母さん、」と私は祖母の肩に顔をくっつけて云いました、「それを一つ分けてやってもいいでしょう。」

「え、誰にです。」

「僕には、どこかに、兄弟があるんでしょう。ね、あるんでしょう。僕逢いたいんだけれど……。」

祖母はじっと、でも静に、私の顔を見ていましたが、ふいに、私を膝に抱きよせました。