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ひかげのまち
幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選
松本 泰
線上閱讀松本 泰《幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選(ひかげのまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 52,797 字 · 107 頁
貴書拝見仕候、御面談致し度に付この状着次第下記へ御来訪相成度候。
倫敦市南区グレー街十番
ガスケル家
飯田保次殿
「こりゃ意外だ」私は思わず呟いた。斯う雑作なく職業にありつくのは聊か飽気ないような気がするが、満更悪いものでもない。私は間もなく家を出た。
道々私を奇異に感じさせたのは、広告主があまりに近いところに住んでいるという事であった。考えて見れば世の中には随分就職難に苦しんでいるものが多い。然しながら需要と供給は案外目と鼻の間にあっても、うまくぶつかり合わないものだ。私の場合は非常に幸運な機会であらねばならない。
グレー街というのは大通りを二つ越した閑静な一劃で、十番のガスケル家は木立の多い邸宅である。その家ならば散歩のゆき帰りによく前を通った事があるが、ついぞ御用聞の出入さえ見掛けた事のない家である。私は高い石段を上って、緑色に塗った玄関の厚い扉の前に立った。案内を乞うと、稍久時して廊下の奥の方から重い足音が聞えてきた。ガチリと扉を開けて痩せた婆さんが顔を出した。
「お前さん。何用です」婆さんは迂散臭そうにいった。
私は黙って婆さんの鼻先へ手紙を突出して見せた。