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ひかげのまち

幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選

松本 泰

線上閱讀松本 泰《幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選(ひかげのまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 52,797 字 · 107 頁

青空文庫

、どの卓子にも見えていた。男達は大抵、燕尾服か、タキシードを着けている。背広服をきているのは私共の他に多くは見掛けなかったので、いくらか面羞い心持であったが、柏は一向平気で、四辺を見廻しながら、チビリチビリ葡萄酒をやっていた。

その中彼は何を見付けたのか、急に眼を輝して、杯をもった手を何時までも宙に支えている。

「オイ、どうした。何を呆乎している」私は小声でいった。

「素敵だ。俺の探していた通りの顔なんだ」柏は呻くようにいった。

「冗談じゃアない。近所の人がじろじろ見ているじゃアないか、見っともないから止して呉れ」と私は慎めたが、柏は耳にも入れず、

「まア、鳥渡見ろ、この卓子の五列目で、君の真背後なんだ。ロゼッチの『愛の杯』から抜出してきたような美人だ」と熱心にいった。

如何に「愛の杯」から抜出したような美人であろうとも、私には真逆、無遠慮に振返って見るほどの興味はなかった。

やがて食事が済んで、珈琲が運ばれた時、柏は突然私の肘を掴んで、

「『愛の杯』が席を立ったよ。僕は帰る、左様なら」といいながら気忙しく立上った。

「まだ、これから計画があるんだ。今から帰ってどうする」