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げんじゅつてんまたろう
幻術天魔太郎
野村 胡堂
線上閱讀野村 胡堂《幻術天魔太郎(げんじゅつてんまたろう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 45,616 字 · 90 頁
丹沢の隠れ家
「修業はこんや、思いたった時から、すぐはじめるがよい。妹の月子は女ながら天分がある。兄にまけてはならぬぞ」
「ハイ、道人さま」
月子はかわいらしい顔をあげました。
「兄太郎もまた、妹にまけてはならぬ」
「ハイ」
「よいか、――あれを見るがよい」
心外道人はまっ黒な夜空にむかって、杖をあげてなにか文字をかきました。それから船ばたに胸をはって、フ――と息をふきかけると、
「あ、あれは?」
みるみる海上のやみ、うるしのごとき夜空に、五色の雲がムクムクとわきおこって、それをふんで身のたけ数百丈の怪天魔が、蛍光につつまれた袖をはらい、双刃の剣を大上段に、かがみのごとき目をみはって、カッと牡丹の口をひらき、すさまじい火焔をはくのです。
丹沢の隠れ家
ウルシのごとき闇の海上に、中天たかくそそり立つ怪天魔の像は、目をいからし、キバをならし、ボタン花の口をひらいて、船もろとも、四人の人をひとのみとちかづきました。
これは心外道人の幻術としりながら、駿河太郎の天魔太郎も、その妹の月子も、生きた心地もありませんでした。船べりちかく立った心外道人は、手をあげてサッとはらうと、怪天魔の像はかき消すごとくうせて、あとはまっくろな荒れもようの夜の海だけ。