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げんじゅつてんまたろう

幻術天魔太郎

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《幻術天魔太郎(げんじゅつてんまたろう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 45,616 字 · 90 頁

青空文庫

今はこれまでと覚悟した天魔太郎、野州の熊五郎のはいっている独房のカギをあけて、嵐の中へ引だすと、早くもとびつく二人三人の組子を投げとばし、

「次郎坊、後をたのむぞ」

大猿に追手をくいとめさせ、印を結んで、ムラムラと湧きたつカスミの中へ、虎吉と熊五郎をさそってすがたをかくしてしまいました。

追いすがる二手、三手の組子はおもわぬ大猿に道をふさがれ、たじろぐ眼の前へ夜霧の煙幕、あれよあれよとじだんだふむばかりです。

あくる日、ゆうべの嵐をわすれたような晴天、江戸の町なみにかげろうがもえて、嵐に散りのこるなごりの花が、チラリホラリとあさぎ色の空にまいます。

お城大工棟梁泉田筑後は、千住小塚ガ原のたまりから引きだされて、正五ツ(八時)のしおき場にひきすえられました。

しおきは五ツ半(九時)、それまで囚人を小役人小者が中にとりかこみ、検死の役人阿曾倉監物二、三人の下役と、しばらく話をしながら、時をまっております。

「ゆうべ嵐の中を、伝馬町の牢破りがあったそうだな」

「大猿をつれた子供だったと申します。錠前をあけて、泉田筑後の女房と、召使の者十三人、ひとりのこらず逃げだしてしまいました」