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げんじゅつてんまたろう

幻術天魔太郎

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《幻術天魔太郎(げんじゅつてんまたろう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 45,616 字 · 90 頁

青空文庫

両雄相争う

天魔太郎は、落つきはらって刀もぬきません。

両雄相争う

青柳又八郎は、一刀をふりかぶって、竹矢来のまん中、ジリジリとせまるのです。二十七、八歳、背のたかい青ヒゲの武士、両の目はメラメラと毒蛇のようにもえて、なみなみならぬ相手です。それもそのはず、青柳又八郎というのは、尾州(愛知県)名古屋の家来ですが、ふしぎな刀法と人にすぐれた気力で、藩中にも敵がないといわれた邪剣の使い手、天魔太郎はじつに大へんなものを敵にまわしてしまったわけです。

「えーッ」

キヌをさくようなはげしい気合とともに、又八郎の長剣は、風をきってまっこうから天魔太郎の頭上にくだりました。走るいなずまにたとえられる、必殺の一撃、

「おッ」

それをサッとかわして、とびのいた天魔太郎は、まさにうつくしいアゲハのチョウの身がるさです。

「え、にげるか、ひきょうッ」

おいうつ青柳又八郎の剣は、よこからたてから、突きに、斬りに、まことに目にもとまらぬ変化の早わざです。

天魔太郎は、じつによくそれをかわしました。あいかわらず刀もぬかず、術もつかわず、しのつく大夕立の中を、ヒラリヒラリととびかうツバメのように、打ちたて、突きたてながら、又八郎の邪剣をにげておりましたが、なにぶん素手ではあつかいかねたものか、しだいしだいに追いたてられて、竹矢来のすみへすみへとにげこん