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げんじゅつてんまたろう

幻術天魔太郎

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《幻術天魔太郎(げんじゅつてんまたろう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 45,616 字 · 90 頁

青空文庫

にとんでおります。

そのうわさの中に、青柳又八郎、しずかに長屋へこもっておりました。ひとりぐらしの気らくさや、やとい人を遠ざけさえすれば、奥のひと間にいるのは、自分とあんどんだけ。そのあんどんの灯の下に、ピタリとすわって、又八郎は脇差を引きぬきました。

この恥をそそぐために、腹かき切って、もうしわけをする気でしょう。

あしたはあほう払いときまった尾張大納言の家来、青柳又八郎、その不面目をまぬがれるためには、腹を切るほかはないと思いさだめました。胸をくつろげ脇差をもちかえると、

「まったッ」

どこからともなく、低いながらも、力のこもった声がかかります。おもわず刀をひざのうえにおいて、声のしたほうをふりかえると、唐紙をあけたようすもないのに、きょうの果しあいで、おなじく天魔太郎に負かされた妖術使いの猫間犬丸が、又八郎のうしろに立って、しずかに見おろしているのでした。

「貴殿は?」

青柳又八郎はそれをとがめました。

「猫間犬丸、道灌山の果し合いに、貴殿どうよう、はじをかいたせっしゃでござるよ」

「それが、何用あってこられた?」

「せっしゃには、主君もなく、朋輩もなくノリ米ほどの禄もないから、技で負けたところで、腹を切るほどの義理もない」