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ゆうれいとスクリュウ

幽霊と推進機

夢野 久作

線上閱讀夢野 久作《幽霊と推進機(ゆうれいとスクリュウ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,905 字 · 24 頁

青空文庫

向って右側に立っている水夫の鼻の横に出来ている疵口が、白くフヤケた一寸四方ばかりの口を開いている向うから、奥歯の金冠が二三本チラチラと光っていた。その疵口は水夫長が手ずから強いアルコールで拭き浄めてやったものであった。

その水夫は私の顔を見ると、二つの口を歪めてニヤリと笑った。そうして明瞭な英語で、

「……水夫長を連れて行きますよ」

と云った。その声は二人の運転手も一緒に聞いたのだから間違いない。口の横に大怪我をしている人間とは思えない、ハッキリした、静かな口調であった。

……轟然一発……。

私は自分の頭が破裂したのかと思った。振り返ってみると、それは一等運転手が、私の背中越しに、二人の水夫を目がけてピストルを発射したのであった。給仕、水夫、コック、船長などがその音を聞き付けたらしい。

「ドウシタドウシタ」「……どうしたんだ……いったい……」

と口々に叫びかけながら走り込んで来た。その中には、私達三人を幽霊じゃないかと疑った慌て者も居たそうであるが、これは考えてみると無理もなかった。本物の幽霊はピストルの烟と一緒に消え失せてしまって、アトにはウンウン藻掻いている水夫長の肉体だけが残っていたのだから、説明の仕様がなくなった三人が、三人とも、思い切った珍妙な顔をしていたのは当然である。