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いようへん
影を踏まれた女
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《影を踏まれた女(いようへん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 23,110 字 · 46 頁
それは蛇か蜥蝪のようなもので、しずかに地上を這っているらしかった。この風雨のためにどこから何物が這い出したのかと、伊四郎は一心にそれを見つめていると、かれは長い大きいからだを曳きずって来るらしく、濡れた土の上をざらりざらりと擦っている音が風雨のなかでも確かにきこえた。それはすこぶる巨大なものらしいので、伊四郎はおどろかされた。
かれはだんだんに近づいて、伊四郎のひそんでいる屋敷の門前をしずかに行き過ぎたが、かれはその眼が光るばかりでなく、からだのところどころも金色にひらめいていた。かれはとかげのように四つ這いになって歩いているらしかったが、そのからだの長いのは想像以上で、頭から尾の末まではどうしても四、五間を越えているらしく思われたので、伊四郎は実に胆を冷やした。
この怪物がようやく自分の前を通り過ぎてしまったので、伊四郎は初めてほうとする時、風雨はまた一としきり暴れ狂って、それが今までよりも一層はげしくなったかと思うと、海に近い大川の浪が逆まいて湧きあがった。暗い空からは稲妻が飛んだ。この凄まじい景色のなかに、かの怪物の大きいからだはいよいよ金色にかがやいて、湧きあがる浪を目がけて飛込むようにその姿を消してしまったので、伊四郎は再び胆を冷やした。