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いようへん
影を踏まれた女
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《影を踏まれた女(いようへん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 23,110 字 · 46 頁
その日中に幽霊でもあるまい。おれの臆病らしいのをみて、あの女房め、忌なことを言っておどしたのかも知れない。ばかばかしい目に逢ったとも思ったが、半信半疑で何だか心持がよくないので、その日は貸家さがしを中止して、そのまま師匠の家へ帰った。
この年は残暑が強いので、どこの寄席も休みだ。日が暮れてもどこへ行くというあてもない。
「今夜は二十六夜さまだというから、おまえさんも拝みに行っちゃあどうだえ。」
師匠のおかみさんに教えられて、彼は気がついた。今夜は旧暦の七月二十六夜だ。話には聞いているが、まだ一度も拝みに出たことはないので、自分も商売柄、二十六夜待というのはどんなものか、なにかの参考のために見て置くのもよかろうと思ったので、涼みがてらに宵から出かけた。二十六夜の月の出るのは夜半にきまっているが、彼と同じような涼みがてらの人がたくさん出るので、どこの高台も宵から賑わっていた。
彼はまず湯島天神の境内へ出かけて行くと、そこにも男や女や大勢の人が混みあっていた。その中には老人や子供も随分まじっていた。今とちがって、明治の初年には江戸時代の名残りをとどめて、二十六夜待などに出かける人たちがなかなか多かったらしい。