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いようへん

影を踏まれた女

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《影を踏まれた女(いようへん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 23,110 字 · 46 頁

青空文庫

両側の店屋はどこも大戸をおろしているので、いざという場合にも駈け込むところがない。かれはそこに立竦んでしまった。

「人魂かしら。」と、かれはまたささやいた。

「そうですねえ。」と、熊吉も考えていた。

「いっそ引っ返そうかねえ。」

「あとへ戻るんですか。」

「だって、お前。気味が悪くって行かれないじゃあないか。」

そんな押問答をしているうちに、燈籠の灯は消えたように暗くなった。と思うと、五、六間さきの方へゆらゆらと飛んで行った。

「きっと狐か狸ですよ。畜生!」と、熊吉は罵るように言った。

熊吉はことし十五の前髪であるが、年のわりには柄も大きく、力もある。女房もそれを見込んで今夜の供につれて来たくらいであるから、最初こそは燈籠の不思議を怪しんでいたが、だんだんに度胸がすわって来て、かれはこの不思議を狐か狸のいたずらと決めてしまった。かれは提灯のひかりでそこらを照らしてみて、路ばたに転がっている手頃の石を二つ三つ拾って来た。

「あれ、およしよ。」

あやぶんで制する女房に提灯をあずけて、熊吉は両手にその石を持って、燈籠のゆくえを睨んでいると、それがまたうす明るくなった。